不斉ベイリス・ヒルマン反応に基づく複素環状化合物の合成法の開発を目的に、α-アミノアルデヒドについて検討を行った。その結果、L-アミノ酸から誘導した基質では触媒であるβ-ICDとマッチし、高いジアステレオ選択性でsyn生成物が得られることがわかった。一方、D-アミノ酸から誘導した基質ではβ-ICDとミスマッチとなり、収率、ジアステレオ選択性ともに大幅に低下した。このことより、基質とキラルアミン触媒との間の水素結合をとおして、高次の立体制御が行われていることが示唆された。そこで、両対掌体の反応性ならびに立体選択性に及ぼす水素結合の効果を評価するため、分子内水素結合が関与しない基質について検討した。まず、L-N-Fmoc-N-メチルロイシナールについて反応を行ったところ、ほぼsyn-体のみが得られてきた。次に、D-N-Fmoc-N-メチルロイシナールでの反応を行ったところ、anti-体が優先的に得られてきた。この結果は、L-体とD-体のいずれにおいてもS配置のアルコールが優先して得られていることを示しており、アルデヒド基質内に水素結合が存在しない場合、アルデヒド自身の立体要求よりもキラルアミン触媒β-ICD固有の選択性が支配的になることが明らかとなった。上記の反応では、いずれの場合も光学的にほぼ純粋な生成物が得られることから、本反応条件では、ラセミ化は起こらないことが判明した。なお、アクリル酸メチルを用いるDABCO触媒下の反応ではsyn-体もanti-体もラセミ体として得られることから、この点は本不斉ベイリス・ヒルマン反応の新たに見いだされた特長である。L-N-Fmoc-ロイシナールから得られたベイリス・ヒルマン付加体をTBAFで処理したところ、選択的にアミドカルボニルのところで環化し、高収率でγ-ラクタムが生成することを見いだした。さらに、この環化反応を系統的に調べた結果、鎖状基質については、一般性があることがわかった。
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