研究概要 |
独自のTi(Zr)-クライゼン縮合やアルドール反応を開発してきた.これらの反応は,以下に述べる各種の特徴を有しており,実験室的にも工業的にも有用と考えられる. (1)塩基法(NaH,LDA等)に比べ高い反応速度・高収率. (2)温和・実用的な温度条件(-10〜30℃). (3)塩基に不安定な官能基(ハロゲン・ケトン・アルコール・トシルオキシ)を共存する基質への適応. (4)極めて低毒で、安価なTi,Zr試剤の使用ならびにトルエン・ジクロロメタン溶媒で可能(高価で、工業的に不利なエーテル系溶媒を用いない). (5)Zr反応剤は、熱力学的に不利で従来困難であったα,α-二置換エステルのClaisen縮合が可能. (6)ケトン/アルデヒド間のみでなくケトン/ケトン間でも進行し,最強レベルの向山・奈良坂アルドール反応より反応性大.高いsyn-立体選択性. (7)困難である単純エステル・チオエステルの直接Aldol-型反応が可能. (8)直接Mannich型反応も進行し,立体化学はイミンの違いによりsyn/anti相補的である. これらの反応の特性を活かし,各種有用環状化合物の合成を達成した. 1.抗生物質の中で最も重要な1β-メチルカルバペネムの2つの鍵段階の効率的な立体選択的合成を見出した.(最近、メルク社は、このTi-反応剤を用いてAnti-MRSA抗生物質合成の工業的製法を行った).第一鍵段階は高立体選択的Ti-アルドール付加であり,第二鍵段階においてチオエステルの脱水型Ti-クライゼン縮合であり,工程を短縮でき,将来のアナログ合成に役立つと期待できる. 2.香料化学の重要課題であるムスク香料17員環(Z)-シベトンの初めての大量合成法を確立した.高濃度(0.1〜0.3mM)・短時間(1-3時間)でのTi-ディークマン環化(分子内クライゼン縮合)を鍵段階とする.大量サンプルの合成が可能になった.類型のTi-アルドール環化による(R)-ムスコン中間体の合成にも成功し,これらは現在工業化を検討中である. 3.ミント香料として代表的な(R)-ミントラクトン,(R)-メントフラン,(R)-デヒドロミントラクトンのTi-アルドール縮合を鍵段階とする短段階合成法を見出した.従来法に比べ工程数を大幅に短縮できた.
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