研究概要 |
トリス(2,2'-ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)_3^<2+>)を用いたアニリン2量体{N-フェニル-p-フェニレンジアミン(PPD)}の光重合時にポリアニオンであるDNAを共存させると、DNAの高次構造を反映したポリアニリン(PAn)/DNA高次組織体が生成することを明らかにしてきた。また、このDNA組織体を用いて応答性が早く、高輝度なRu発光型のEL素子の試作に成功した。そこで本研究では光触媒であるRu(bpy)_3^<2+>を、インターカレーターとしても機能するアクリジンオレンジ(AO)に代えて検討を行い、より高い構造規則性、強い電子的相互作用をもつPAn/DNA強相関組織体の作製を試みた。 重合溶液中における490nm付近のAOの吸収は、DNA共存下で長波長シフトし、その吸収において淡色効果も認められた。このことはAOがDNA塩基対間にインターカレートされていることを示唆している。また、CDスペクトルにおいてDNA存在下ではAOの500nmの吸収に対応した正のカイラリティーが観察された。インターカレートしたAOがDNAと同じ右巻きに規則正しく配列していることが考えられる。PPDは以前の検討からDNAに静電的もしくはインターカレーションにより結合していることが明らかとなっており、重合以前において高次な組織体が単純に混合するだけで自己集合的に形成されていることが示唆された。 この溶液に光を照射し光重合を進行させた。重合に伴い420、1050nm付近のPAnのポーラロンバンドに基づく吸収の増加が観察されPAn/DNA組織体の生成が示唆された。組織体生成に伴い420nm付近に正のコットン効果が現れることから、PAnがある規則性を持って組織体を形成していることが考えられる。重合後に溶液のpHを9に調整しPAnを脱プロトンすることで420、1050nmの吸収、CDが消失した。しかしながら再びpHを3に調整しPAnをプロトン化することで再度そのCDが増加した。pHによりコンプレックス中のPAnが可逆的にDNAと離脱・組織体形成することが考えられる。また、低pHで得られる誘起CDはRu錯体を用いて重合した組織体のそれより強度が強く、AOを用いることでより高い構造規則性を発現できることを明らかにした。
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