研究概要 |
Ru(bpy)_3^<2+>を用いたアニリン誘導体の光重合をDNAテンプレート共存下行うことで、Ru(bpy)_3^<2+>を含みDNAの高次構造を反映したポリアニリン(PAn)/DNA高次複合体の生成や、それを用いた高輝度なRu錯体発光型EL素子の試作に成功した。このEL素子の動作機構を明らかにするため、複合体の電荷輸送特性を検討したところ、PAnを含まないDNA/Ru(bpy)_3^<2+>錯体においても高い電荷輸送特性が得られることが明らかとなった。本概要ではDNA/Ru(bpy)_3^<2+>高次複合体の構造とそれを用いたEL素子の動作機構について総括する。 DNAとRu(bpy)_3^<2+>の相互作用を解析するため、DNA水溶液、ならびにこの溶液にRu(bpy)_3^<2+>を加えた溶液の吸光度を温度を変化させて測定した。温度の上昇に伴い、270nm付近の吸光度の上昇が確認された。DNA自体の変性温度は約67℃であったが、Ru(bpy)_3^<2+>を加えた溶液では約74℃と、Ru(bpy)_3^<2+>を添加したことにより変性温度が約7℃上昇した。Ru(bpy)_3^<2+>の配位子(2,2'-ビピリジル基)がDNA塩基対間にインターカレートし、DNA二重らせんが熱的に安定されたためと考えられる。 PAnを含まないDNA/Ru(bpy)_3^<2+>複合体においても高い電荷輸送特性が得られたため、DNA/Ru(bpy)_3^<2+>複合膜における電流・電圧特性を測定した。印加電圧3V以上で電流値の急激な上昇が認められ、これを反映して3V付近から赤色の発光が観察された.15Vにおいて最大発光輝度49.7cd/m^2が得られた。この素子の発光挙動を解析する目的でセル作製直後の発光挙動をセルに0-10Vの矩形波を与えて評価した。Alq/TPD系デバイスに比べ電圧印加時の立ち上がりが鈍く、電気化学挙動の寄与も考えられるが、電圧印加サイクルによって発光強度が変化しないこと、また、70msec以下で定常強度に達することから、従来の電気化学挙動で本セルの発光過程を説明することは困難である。むしろ、応答の遅い成分はDNAと相互作用していないRu(bpy)_3^<2+>に起因することが考えられる。 これらの結果を総括すると、DNAを母体とする複合体の構造的ならびに電子的特長がホール、電子の高速移動を可能にし、両電荷がRu(bpy)_3^<2+>において再結合することでEL発光が誘起されたと結論づけられ、高次複合体が魅力的な材料であることが明らかとなった。
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