ペプチド型両親媒性分子は、自己会合した分子の間に形成される水素結合によって平行β-シート構造をつくることができる。ペプチド部をオリゴロイシンにすれば、Y字型の側鎖がファスナーのようにβ-シート間を固定し、ある程度の機械強度を有する柔軟なフィルムになる。平成14年度は、ペプチド間水素結合とロイシンファスナーの相関性を見いだしたが、本年度はこれらの分子を用いて気水界面単分子膜を作成し、特異なπ-A曲線と単分子膜のFT-IRスペクトル測定の結果より、水素結合とロイシンファスナーの相関性を証明することができた。ロイシンファスナーの形成が可能な分子はπ-A曲線上に一時的な圧力増加を示すのが特徴である。この圧力増加は固体凝縮膜を形成する直前に現れるが、これはロイシン側鎖の噛み合いに由来すると考えられた。そこで、圧力増加前後での単分子膜をGe基板にすくい取り、FT-IRスペクトルの多角入射解析(MAIRS)を行ったところ、圧力増加後にメチル基の配向が規則化していることが明らかになった。圧力増加前後のスペクトルはいずれも平行β-シートの形成を示すことから、単分子膜は最初に形成されたβ-シートのクラスターが機械的に圧縮されることで側鎖間に噛み合いを生じていることになる。すなわちロイシンファスナーはβ-シートが形成されなければ作用しない。このような階層構造性を有する超分子についてはほとんど報告がなかった。β-シートの加圧によってロイシンファスナーを形成させることは、ヘキサロイシン誘導体を用いても可能であった。この場合、ヘキサロイシン誘導体の脆いキセロゲルを油圧プレスすることで柔軟なフィルムにすることができる。低分子量分子であるにもかかわらず、この素材は塑性加工できることになる。以上のように本研究では水素結合とロイシンファスナーを強相関させることにより、分子連鎖に共有結合を用いない新たな超分子材料を得ることができた。
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