研究概要 |
本研究では,新たに水素結合性の強相関分子としてトリエトキシシランを有する新規な核酸塩基誘導体を合成し,それとポリビニルアルコール(PVA)とのゾルーゲル反応によって水素結合性キャリヤーを有する強相関ゲル膜を調製した。さらに,得られた水素結合性強相関ゲル膜と透過物質との水素結合形成能を動的制御することによって,生体膜の能動輸送を模倣した物質輸送(上り坂輸送)を試みた。その結果,以下のような成果が得られた。 1.ゾルーゲル法を利用した水素結合性強相関ゲル膜の調製 末端にトリエトキシシランを有するウラシル誘導体とポリビニルアルコール(PVA)とのゾルーゲル反応によって,従来よりも多量に水素結合性キャリヤーを有する強相関ゲル膜を調製することができた。また,その際に水素結合性キャリヤーを効率よく導入する膜調製条件も明らかにした。 2.水素結合性強相関ゲル膜と核酸塩基類との水素結合形成能の検討 得られたウラシル導入ゲル膜に対する核酸塩基類の吸着量測定を行った結果,中性付近のpHで最も高い吸着量を示し,酸性およびアルカリ性条件下では急激に吸着量が減少した。 3.水素結合性強相関ゲル膜による核酸塩基の上り坂輸送 外部溶液中のpH差を駆動力としてウラシル導入ゲル膜により核酸塩基類の上り坂輸送を行った結果,ウラシルと相補的水素結合を形成するアデニンは上り坂輸送されたが,水素結合を形成しないシトシンは上り坂輸送されなかった。 4.核酸塩基類の上り坂輸送挙動に及ぼす輸送条件の影響 膜を介したpH差によって核酸塩基類の上り坂輸送量は大きく変化し,酸性側pHを中性付近に近い条件で行うと最も効率よくアデニンの上り坂輸送が可能になった。したがって,膜を介して一方でアデニン吸着量の高い条件で,もう一方をアデニン吸着量の低い条件で輸送実験を行った場合に,最も大きな輸送量を示した。
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