本研究では研究代表者が開発した「ナノレオロジー原子間力顕微鏡(AFM)」にさらなる発展的改良を加え、「強相関ソフトマテリアル」研究の一助とすることを目的とした。ナノレオロジーAFMとは、タンパク質などの単一高分子鎖を基板と探針の間に挟み込み、伸長の過程でサブナノニュートンレベルの微小な力を検出しようとする通常のAFM動作を拡張し、広帯域の任意波形を入力とし、単一高分子鎖の粘弾性的性質を明らかにしようとするものである。これまでの研究においては、低周波数(0.01〜100Hz)領域で興味深い現象、例えば単一タンパク質の「フォールンディング・アンフォールディング」の解析、単一合成高分子の「バネ定数」の見積もりなどの例で成功を収めている。本年度はこの装置を「分子内の非共有結合性結合の強度・反応速度」を決定付けるための装置として特化すべく、周波数帯域を拡張することを試みた。 当初の計画では、まず機械的なタッピングモードに代わる測定法として市販されている磁気力ドライブセルを購入し、ナノレオロジーAFM装置で使用できるように改変を施すつもりだったが、市販セルの不完全さから待機を余儀なくされた(H14年末にようやくアップデートしたセルを購入できた)。その間、機械的タッピングモードを元にした予備的研究を行った。そこでは通常タッピングモードの操作で行われるような探針の共振周波数近傍(100kHz程度)での加振ではなく、そこから十分離れた周波数での加振を行い、応答を見るという新しい試みを行った。これによって0.1〜10kHz程度の周波数領域で、単一高分子鎖の動的性質を確認することに成功した。本方法は磁気力による加振にすぐに置き換えることが可能であるため、非常に有用な予備実験を完了することができたことになる。なおその結果については1つずつの国際、国内会議で発表を行っている。
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