研究概要 |
「陽子反陽子衝突実験によるヒッグス粒子の探索(計画研究AO1)」では,米国フェルミ国立加速器研究所の陽子・反陽子衝突型加速器テバトロンおよびCDF検出器を用い,世界最大の重心系エネルギー2TeVでの陽子・反陽子衝突によって生じる事象の性質を調べることによって,素粒子物理研究を行う。2001年春より本実験が開始され,現在データ収集とそれに並行した物理解析が行われている。この間に12名の大学院生がこの研究で博士号を取得した。 ヒッグス粒子の間接探索としては,トップクォーク質量とWボソン質量の精密測定が行われており,これによってヒッグス粒子の質量が間接的に測定できる。2005年度にこれまでの約4倍のデータを解析して,しかもWボソンが2ジェットに崩壊する質量分布を用いて系統誤差を小さくして,トップクォーク質量を測定した。その結果,世界平均値よりも精度の高いトップクォークの質量173.5+2.7/-2.6(統計)±3.0(系統)GeV/c^2が得られた。この結果は2005年春に,米国フェルミ国立加速器研究所と高エネルギー加速器研究機構のインターネット・ニュースでも報道された。この測定結果とこれまでに測られているWボソンの質量を用いて,ヒッグス粒子の質量は91+45/-32GeV/c^2となり,質量上限値として186GeV/c^2が得られた。この上限値は2004年春時点でのヒッグス質量上限値251GeV/c^2を大幅に下げる結果となった。この研究に関する博士論文1編には、『2004年度筑波大学学長表彰』が与えられた。ほぼ同様のトップクォークの質量測定結果は力学的最尤法(Dynamical Likelihood Method)を用いた解析でも得られた。 直接ヒッグス粒子探索を行った結果、軽いヒッグス粒子(M_<Higgs>=120GeV/c^2)についてはWH随伴生成のチャンネルでヒッグスがボトムクォーク対に崩壊するモードで探索した結果、生成断面積上限として4.5pbを得ており、重いヒッグス粒子(M_<Higgs>=160GeV/c^2)についてはヒッグス直接生成のチャンネルでヒッグスがWボソン対に崩壊するモードで探索した結果、生成断面積上限として3.2pbを得ており、さらに高統計のデータを得ることが待たれる。 以上の物理解析の結果、ヒッグス粒子の質量の範囲を大きく狭めることに成功した。ヒッグス粒子直接探索についても、いくつかのチャンネルについて包括的に解析研究が行われて結果が出ている。今後4年間で現在までに解析したデータの20倍の高統計のデータを得る予定なので,その全データを用いての探索結果が期待できる。
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