はじめに、欧州共同体高エネルギー物理学研究所CERNで目下建設中の陽子衝突型加速器LHCを用いる素粒子実験の中央飛跡検出領域に、シンチッレーティングファイバー(Sci-Fi)を素材として用いる荷電粒子飛跡検出器を設置することを仮に想定し、どのような構造のものが最適であるかをコンピューターによるシミュレーショシの手法を検討した。その結果、ビーム軸からの距離70cm〜120cmまでの領域を中央飛跡検出領域とし、ここに直径0.66mmのSci-Fiを円筒状に隙間なく並べた層を12層配置した構造が最適であることがわかった。この構造で、ドリフトチューブ型検出器などの既存の検出器を用いる場合と同等の少ない物質量および高い運動量測定精度を維持しつつ、Hit Occupancyを大幅に減少させることができ、粒子多重度が高いことによる飛跡検出効率の低下を防ぐことができる。また、実験中にSci-Fiが受ける放射線量も見積もったが、放射線損傷による光量の低下は、実験が数年にわたる場合でも問題ないことがわかった。 次に、Sci-Fiを用いた飛跡検出器の雛形の設計・製作を行った。コア径0.66mmのSci-Fiを16本並べた層を一定の間隔で3層重ねた形状の荷電粒子飛跡検出器を製作した。Sci-Fiの長さは、上記LHC実験で用いることを仮に想定し、2.5mとした。Sci-Fiの発光の読み出しにはアレイ型アバランシェフォトダイオードAPDを用いるが、Sci-Fiの極めて微弱な発光に対して十分高い検出効率を得るためには、APDを-50℃以下に冷却する必要がある。このための冷却システムとして、ペルチエ素子による方式と液体窒素による方式の両者をテストできるようなシステムを製作した。
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