超対称標準模型は標準模型を越える理論として多くの研究者に注目を浴びている。この理論ではレプトン数をもつスカラー場(スレプトン)が存在し、その質量項はレプトンフレーバー対称性を破りえる。この破れの大きさは超対称性の破れおよび超対称標準模型を越える理論に依存する。 ニュートリノ振動が発見されて以来超対称化されたシーソー模型は、超対称標準模型を越える理論として有望視されている。この理論において、超対称性の破れの起源が右巻きニュートリノの質量より大きなエネルギースケールの物理に起因している場合、ニュートリノの湯川相互作用による量子補正によりレプトンフレーバー対称性を破るスレプトンの質量項が生成され、レプトンフレーバー数を破る荷電レプトンの稀崩壊が予言される。 久野は超対称化されたシーソー模型におけるレプトンフレーバー数を破る荷電レプトンの稀崩壊の事象比の予言を評価し、MEGやBファクトリーといった実験で将来μ→eγやτ→μγといった事象が観測される可能性を検討した。また、ほかの超対称理論(Rパリティの破れ等)や超対称模型以外の標準模型を越える理論においてタウレプトンのレプトンフレーバー数を破る事象の予言についてしらべ、将来型Bファクトリーで検証可能かを検討した。 超対称化されたシーソー模型を超対称大統一模型に拡張した場合、右巻きダウン型スクォークの第2、第3世代間で大きな混合があるかもしれないことを大気ニュートリノ振動実験の結果は指示している。BファクトリーであるBELLE実験において、B→ΦKs事象におけるCP非対称性は標準模型の予言から3シグマのずれが報告された。この事象は右巻きダウン型スクォークの第2、第3世代間の混合に大きく依存する。久野は超対称大統一模型において右巻き、左巻き両方のダウン型スクォークが混合を持つことに着目し、第2、第3世代間の混合に対し原子核のEDMの観測から強い制限を導いた。これにより、超対称大統一模型は強く制限され、B→ΦKs事象における観測されたずれがこの模型で説明するのが困難であることを示した。
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