本研究の目的は、重力波検出器の感度向上を実現するためレーザー干渉計の雑音を低温化により低減する技術を開発することである。低温鏡の開発は鏡およびそれを懸架する装置を含む全体を極低温に保つ手法並びに装置そのものに関係する。低温鏡の技術は実践的には百m基線長の低温レーザー干渉計(CLIO)に装着することにより、その技術成果が発揮されるため、本研究では低温鏡の物理的研究及び開発研究を行うと同時に神岡宇宙素粒子研究施設内に建設を進めているCLIO干渉計の製作・開発を本特定領域内の他の計画研究(エ、オ、サ)と協力して行った。低温鏡の基材としてこれまでの研究によりサファイヤ結晶が最適であることが判明しており、将来の大型低温重力波望遠鏡LCGT計画に使用する予定の直径25cmの大きさのものまで製造可能であることが知られている。しかし、サファイヤ結晶は光学損失が従来の人工石英に比べて大きいという欠点があり、また結晶の不完全性からわずかな複屈折を生じる恐れがある。鏡基材の選別と評価のためこれまで開発してきた複屈折率ゆらぎを1ppmより良いレベルで計測する装置を完成させ、CLIOに使用予定の直径10cm、厚さ6cmのサファイヤ基材4個について最終測定を行い、測定の再現性を確認した。さらに、散乱損失計測に造詣の深いオーストラリア大物理学科と協力してこれら基材のうちの2個について計測を行い、複屈折揺らぎとの相関を評価することにより、我々が開発した複屈折揺らぎ測定装置の信頼性を評価している。なお、CLIO建設に関して真空装置製作の一部並びに鏡のための清浄環境維持装置製作に関して本格的な協力を行うと共に特定領域で進められている他の研究計画との共同研究としてTAMAデータの解析も行った。
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