研究概要 |
ゼオライトは,近年,その高い酸化能や超分子的立体効果などが注目されている.例えば,1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン(1)とHZSM-5を混合すると吸着後に電子移動がおこり,1^<・+>がゼオライト細孔の超分子的立体効果で安定化を受けて「単離」された1^<・+>@HZSM-5が生成する.それは拡散反射およびESRスペクトルの測定により確認された.このラジカルカチオンはラジカル部とカチオン部が局在化しない,いわゆる非分離型のラジカルカチオンであり,不安定とされるラジカルカチオンの中でも,安定性が比較的高い部類に属する.一方,ラジカル部とカチオン部が形式上局在化する,いわゆる分離型のラジカルカチオンは,様々な有機電子移動反応の中間体として認識されているが,ゼオライト細孔の超分子的立体効果で安定化されて「単離」された例は未だかつてない.そこで,本研究では,種々の2-アリール-1,5-ヘキサジエン(2)とHZSM-5との反応について,溶液中の光誘起電子移動反応とともに検討した. まず,光誘起電子移動反応を検討すると,ジエン2は縮退コープ転位や4-アリールビシクロ[2.2.0]ヘキサン(3)の生成を起こした.また,酸素雰囲下の反応では,4-アリール-2,3-ジオキサビシクロ[2.2.2]オクタン(4)が高収率で生成した.これらの結果は,分離型ラジカルカチオンである6員環状1,4-ラジカルカチオン(5^<・+>)の発生を強く示唆する. 次に,2とHZSM-5の反応を検討した.トリメチルペンタン中でこれらを混合するとゼオライトは速やかに薄緑色を呈した.このゼオライトを濾過により単離してもその色調は変わらず,空気中においても安定であった.ESR測定により,5^<・+>@HZSM-5を強く示唆するものであったが,その超微細結合定数に幾つかの特徴が見られた.今後密度汎関数を用いての詳細な計算を行う予定である.
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