本計画に於いては、時間分解ESR法を中心に用い、逆ミセル界面および水相における光化学反応を観測し、過渡的ラジカルイオン対のスピンダイナミクスと反応機構を明らかにすることを目的とした。この研究進行においては、磁気共鳴法の専門家であるロシアのゴレリック博士を招へいし研究を遂行した。具体的膜界面研究には、AOT逆ミセル中における水に可溶化したTMPDの光イオン化反応を、超分子構造体でのラジカルイオン対の検出対象として用い、時間分解ESR測定を行った。その結果、AOT逆ミセル中ナノサイズ水相における水和電子のダイナミクスと界面との相互作用が明らかとなった。逆ミセルのサイズを添加する水の量で種々調整し大きくしていくことにより、AOTからのラジカルの他に、スペクトルの中心に界面と関係のある溶媒和電子(g=2.0030)と思われるE/A型のスペクトルが発現した。水の量をさらに増加させることにより、明らかに水和電子と同定できるスペクトル(g=2.0004)が位相A/Eで光照射直後に生成し、その減衰に伴い前述の溶媒和電子によるスペクトルが現れることが確認できた。さらに、微弱な信号ではあるが対ラジカルであるTMPDカチオンラジカルがこれら水和(溶媒和)電子と同位相で観測された。観測された位相の反転は、水和電子とTMPDカチオンラジカル間と溶媒和電子とTMPDカチオンラジカル間とでは交換相互作用の符号が異なっており、水相とミセル界面におけるこのイオン対における異なった相互作用の存在を示唆している。このイオン化は従来知られているように励起一重項状態からと考えると、水和電子とTMPDカチオンラジカル間の交換相互作用の符号は負となる。時間経過と共に生じた溶媒和電子は、この水和電子がAOT逆ミセルの界面あるいは束縛水内に浸透したものと考えられる。
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