研究概要 |
今年度は二つの研究を行った。 1.逆フォトクロミズムを示すスピロピランLB膜の光応答挙動の解明 インドリン環の窒素上に長鎖アルキル基を有し,ベンゾピラン環のベンゼン環に二つのニトロ基を有するスピロピランは,着色したメロシアニン体が安定であり,可視光照射と熱によって無色のスピロピラン体との間を可逆的に往復する。この化合物を水面上に展開し,ガラス基板上にすくい取って単分子膜を得た。これに可視光を照射すると可視部の吸収スペクトルが減少し,室温放置すると元に戻ることがわかった。可視光照射前と後の膜の状態をAFMで観察すると,照射前はアルキル鎖長に相当する2nmあった膜厚が,照射後は0.5nmになっていた。これより,単分子膜の膜厚を光照射によってナノメートルスケールで制御できることがわかった。 2.結晶状態で着色するピラゾール誘導体の光着色機構の解明 メチル基とホルミル基が隣接炭素上に存在するピラゾール誘導体は,溶液中では着色しないが結晶状態では紫外光照射によって着色する。着色した状態は,融解,あるいは有機溶媒に溶解すると元の無色体に戻る。この着色反応の機構を調べるために,液体窒素温度において2-メチルTHFのマトリックス中で紫外光を照射すると,結晶状態と同様の着色が認められた。また,有機溶媒中室温でフェムト秒からナノ秒のオーダーで光着色過程を追跡したところ,着色体は生成するがマイクロ秒のオーダーで消色することがわかった。これらの結果より,この化合物の着色反応過程の機構と着色体の構造を提出することができた。
|