(1)有機薄膜系太陽電池の作製条件の確立 低分子系材料を用いた有機薄膜系太陽電池は真空蒸着法により作製されるが、リーク電流の発生の割合が高く、容易に良好な素子を得ることができない。我々は、リーク電流の発生が、有機層の微結晶化によるピンホールによることを突き止めた。また、透明電極の前処理により、リーク電流の発生を防止することができるようになることを明らかにし、再現性よく太陽電池を作製することが可能となった。 (2)有機物層とITO透明電極界面の改良 有機物層とITO界面は有機/無機界面となっており、良好な接触が得られにくい。そのため、有効接触面積が小さく、そのことが光電流を小さくする原因となっていることがわかった。導電性高分子膜あるいは低分子アモルファス性の正孔輸送性材料をこの界面に挿入すると、その接触がよくなり、光電流を約40%増大させることができた。 (3)有機物と金属電極界面の改良 有機物と金属(Ag)電極界面も有機/無機界面であり、良好な接触が得られにくい。この界面の接触性を改善するために、Ag電極を真空蒸着する前に、ごく少量の銀を有機物表面近くに分布するよう低エネルギーでイオン注入した。その上でAgを真空蒸着して電極を作製すると、光電流は約40%向上し、(2)の処理と合わせて、通常の作製法と比べて光電流を約2倍に増大することに成功した。 (4)観測された光電流についての考察 上記のようにして得られた光電流(短絡光電流)は約4.1mAcm^<-2>である(AM1.5、100mWcm^<-2>疑似太陽光照射下)。有機薄膜系太陽電池の光電流値としては極めて高い値ではあるが、この系において理論的に期待される最高値(約15mAcm^<-2>)と比べるとかなり低い。有機層内に励起子ブロック層を挿入し、その位置と光電流値の関係から、その原因を探った。その結果、有機層内のごく狭い領域のみが光電流の発生に有効に機能していることがわかった。この結果は、研究を次の段階に進めるための重要な指針を与えるものである。
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