光と分極との高速かつ自由度の大きな相互作用と、スピンがもつ長いコヒーレント寿命を活かし、スピンエレクトロニクスと光エレクトロニクスを融合するための要素技術の確立を目指した。特に情報処理デバイスへの応用を視野に入れ、量子ドット間の相互作用機構とその制御に必要な、磁場印加下での励起子波動関数の実空間観測・制御とナノ領域でのスピン状態検出に取り組んだ。本研究ではこれらを可能にする唯一のツールとして近接場光学顕微鏡(NSOM)を使用した。 大きな技術課題は以下の2つであった。(1)スピン状態を観測するため、NSOMによって偏光状態を高感度に検出する、(2)高分解能・高感度なNSOMを低温・磁場下で安定に動作させる。(1)に関しては、プローブの光透過効率を継続的な課題とし、その一方でプローブ内での偏光状態の安定化を図った。また強い背景光(テーパーからの反射光)が微弱な信号を覆い隠してしまうという問題点を解決するため、信号変調と光干渉による微弱信号の増強をおこない、30nm分解能によるカー回転測定のデモをおこなった。一方(2)に関しては、超伝導マグネット下で動作する低温NSOMを作製し、その動作の安定化(ドリフト、振動の除去など)に取り組んだ。その結果として30nmの分解能による単一量子ドットの波動関数の実空間マッピングに成功した。また磁気発光分光も可能となり、単一量子ドット発光のゼーマン分裂や反磁性シフトなどが観測され、実空間マッピングによって評価した量子ドットサイズに対する依存性も明瞭に確認された。
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