最近、室温を越える強磁性キューリー温度が報告され話題となっているZnGeP_2:MnおよびGa_<1-x>Mn_xNの電子構造を、内殻光電子分光および共鳴光電子分光を用いて調べた。 (1)カルコパイライト型半導体ZnGeP_2表面にMnを蒸着し過熱することによって得られる室温強磁性体をin situ光電子分光により調べた。内殻光電子分光法を用いて化学組成や原子価を調べ、共鳴光電子分光法を用いてMn 3dの状態を観測した。さらにSQUIDを用いて磁性の評価を行った。最表面のスペクトルは金属的であるが、熱拡散したMnの一部が固体内部で母体のZnGeP_2と化学反応して価数が変化することがわかった。固体内部でのMnの価数は2価で、局在モーメントを形成していることを示唆するデータを得た。どのような化学組成の物質が強磁性を担っているかは、今後明らかにしていく必要がある。表面をイオン・スパッタで除いても磁性が大きく変化しなかったことから、強磁性はMnがZnGeP_2と反応した固体内部に由来すると考えられた。また、価電子帯頂上には明瞭なフェルミ端が観測され、高濃度な正孔がドープされていることがわかった。強磁性を媒介していると考えられる正孔キャリアーの起源として、2価Mnが4価Geを置換して正孔を生成している可能性や、格子欠陥で正孔が生成されている可能性を考えた。 (2)Ga_<1-x>Mn_xNの基本的な電子構造を調べ、強磁性出現の可熊性を探るために、内殻光電子分光及び共鳴光電子分光実験を行った。共鳴光電子分光により得られたMn 3d部分状態密度は約4eV付近に強いピークを示した。母体との混成の強さとp-d交換相互作用の大きさを、クラスターモデル解析で評価した。
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