本研究全体の目的は a)新狭ギャップヘテロ接合の開発、b)高効率スピン注入電極の実現、c)スピントランジスタの最適設計と素子作製、の3つである。初年度は特にa)b)に関連する内容として、分子線エピタキシ装置の改造(Sbクラッカーセルの導入、電子ビーム蒸着装置との真空結合など)と、InGaSb/InAlSbヘテロ接合成長に向けた予備実験を予定していた。15年3月時点での研究実績は以下の通りである。 1)MBE装置と真空結合する準備作業として電子ビーム蒸着装置の単独での立ち上げを進めた。真空系の立ち上げと基板搬送系の整備については終了した。現在4月末の結合作業に向け、イオンポンプと電子ビーム蒸着部の立ち上げを進めている。 2)もう一台のMBEについては、4月中にSbクラッカーセルの取り付けとイオンポンプの交換を行うべく準備を進めた。またこの間、3)クラッカーセルでない通常SbセルによるGaAs基板上GaSb、AlSb厚膜(~1μm)成長条件の最適化を進めた。その結果、。またIn(x)Al(1-x)Sb(x=0-0.8)ステップグレードバッファの成長条件の検討をSIMS測定/解析、及び最上層InSbの表面モホロジー解析、X線回折及びHall測定により進めた。その結果、バッファ各層の膜厚平均100nmのとき、300Kでの電子移動度5.8x105cm2/Vsecを得た。この値はバッファ層を用いないで直接GaAs基板の上に成長したInSb薄膜での最高値にほぼ等しい。このことはAlSb+InAlSb graded bufferという2重バッファ構造が極めて有望であることを示唆する。ただし、InGaSb/InAlSbヘテロ接合2次元電子ガスのスピン軌道相互作用についての第1原理バンド計算に関しては検討を継続中である。
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