研究概要 |
本研究全体の目的はa)新狭ギャップヘテロ接合の開発、b)高効率スピン注入電極の実現、c)スピントランジスタの最適設計と素子作製、の3つである。研究成果の概要は以下の通りである。 1)厚膜InAlSbを採用した構造によりGaAs基板上変調ドープInGaSb/InAlSbヘテロ構造の分子線成長に成功した。低温での電子移動度は1.2x10^5cm^2/Vsec(シート電子濃度3x10^<11>/cm^2)で、これは従来の最高値にほぼ匹敵する値である。また、スピン軌道結合定数の大きさは20-30x10^<-12>eVmで、これはほぼ従来のInGaAs/InAlAsヘテロ接合における値と同じである。また、ゼロ磁場スピン分裂と高磁場で現れるZeeman分裂の解析を詳細に行い、InGaAs系とは異なり低磁場でRashba項の寄与よりもDresselhaus項の寄与が大きいことを見いだした。原因はまだ明確でないが、これは世界初の成果である。 2)スピントランジスタ実現に向け重要と考えられる1次元伝導構造の例として、両側にサイドゲートをもつ細線を作製しスピン軌道相互作用の2つのゲート電圧の組み合わせに対する依存性を詳細に評価した。その結果、サイドゲート電圧の和が比較的小さいときは水平方向の電界の効果が現れ、スピン軌道結合定数が2つのゲート電圧のバランスが取れたとき最小値を取るのに対し、サイドゲート電圧の和が比較的大きいときはスピン軌道結合定数はゲート電圧に対して単調に増加することがわかった。この結果は、トップゲート電界に比べその効果は比較的小さいものの、サイドゲートによるスピン軌道相互作用の制御が可能であることを示しており、量子ビット素子(2重ゲートタイプ)の実現に一歩近づく結果である。 3)大きいスピン軌道相互作用、及び高電子移動度が維持され,高効率スピン注入に有利である新しい構造の変調ドープヘテロ接合として、表面InGaAsチャネル層の薄い(<60nm)逆構造ヘテロ接合(In組成:0,5、0.75)を作製し、特に0.75の場合極低温での電子移動度、及びスピン軌道結合定数は順構造の試料に比べ遜色のない値が確認された。また、この材料を用いたスピン注入実験では接触抵抗の低減が確認でき,再現性のあるスピンバルブ信号が得られた.
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