電子スピンの電界・磁界操作による量子情報デバイスのデザイン

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14076216
• 研究機関: 慶應義塾大学
• 研究代表者: 江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (00221812)
• キーワード: 量子ドット / 量子情報デバイス / 量子コンピューター / シリコン / 位相緩和 / 超微細相互作用 / ポイントコンタクト / エンタングルメント

研究概要

量子情報デバイスへの応用を念頭におき、半導体量子ドット中の電子スピン制御のための基礎研究を多角的に進めた。(i)シリコン量子ドットの理論研究を開始した。化合物半導体に比べて、シリコンでは電子スピンの長い位相緩和時間が期待されるため、シリコン量子ドットは量子情報デバイスに有利である。その基本的な性質を明らかにするため、電子間相互作用を数値的に取り入れて電子状態を求めた。伝導帯の多谷構造を反映して、異なるスピン状態が縮退する傾向にあること、磁場によって容易に高スピン状態が実現すること、がわかった。そのスピン状態のデバイスへの応用の可能性を議論した。(ii)量子ドットを埋め込んだABリングの電気伝導測定によって、位相緩和の情報を得ることができる。我々はそのような系で生じる高次の干渉効果、ファノ共鳴、の解析的な式を導出し、その特徴を明らかにした。さらに位相緩和の効果を現象論的に取り入れ、ファノ共鳴への影響を論じた。(iii)量子ドットにおける電子スピン緩和の原因の一つとして、核スピンとの超微細相互作用がある。スピン反転をともなう電流が流れる場合に、超微細相互作用によって核スピンのエンタングルメントが誘起されること、それが電子スピンの緩和を著しく増大させること、を理論的に提案した。(iv)スピン注入の素過程の解明を念頭におき、強磁性体金属で作られるポイントコンタクトの電気伝導特性を数値的に調べた。電子間相互作用を非制限ハートリー・フォック法で取り入れ、原子サイズのポイントコンタクトの伝導度をグリーン関数法で計算する手法を開発した。遷移金属において広いsバンドと狭いdバンドがフェルミ準位で共存する効果を考察し、バンド間散乱が電気伝導度を抑制する機構を明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] K.Ueno, M.Eto, K.Kawamura: "Transport Properties through Atomic-Size Point Contacts of Multi-Band Metals"Journal of the Physical Society of Japan. 71巻3号. 860-866 (2002)
• [文献書誌] K.Ueno, M.Eto, K.Kawamura: "Transport Properties through Atomic-Size Point Contacts of Multi-Band Metals"Proceedings of 7th International Symposium on Foundations of Quantum Mechanics in the Light of New Technology. 229-232 (2002)
• [文献書誌] Y.Hada, M.Eto: "Electronic States and Spin Configurations in Silicon Quantum Dots""Toward the Controllable Quantum States"eds. H. Takayanagi and J. Nitta (World Scientific Publishing). 467-472 (2003)
• [文献書誌] Y.Hada, M.Eto: "Multivaley Effect on Electronic States in Si Quantum Dots"Physica E. (出版予定).
• [文献書誌] Y.Hada, M.Eto: "Size and shape dependence of electronic states in silicon quantum dots"Physica Status Solidi. (出版予定).
• [文献書誌] A.Ueda, I.Baba, K.Suzuki, M.Eto: "Numerical Studies of Fano Resonance in Quantum dots Embedded in AB Rings"Journal of the Physical Society of Japan. (出版予定).