本研究では、分子のダイナミクス観測等に必要とされるレーザー励起の高輝度短パルス放射線源の開発を通じ、相対論的光電磁場(すなわち超強光子場)とクラスターの相互作用の解明を目的とする。具体的には、相対論的光電磁場発生に必要な10TW級レーザー開発を行い、これをクラスタージェットに照射してMeVの電子線やガンマ線、陽子線発生を観測する。また放射線発生効率を上げる方法を実験的に検討する。 本年度では、昨年度の研究代表者の移動にともなう、レーザー装置を含む実験装置の移動を行った。クラスターと相対論的な強光子場を実質的に相互作用させるためをには、パルス幅が20fs以下でプレパルスフリーのレーザー装置を作り上げる必要があることが判明しており、これを実現すべく、レーザー装置の大幅改造を試みている。具体的には、10TWチタンサファイアレーザーシステムの前置増幅段を、従来型の再年増幅器から光パラメトリック増幅器(OPCPA)に変更することで、再生増幅器で問題になっていた主パルスとプレパルスの間のコントラスト比10^6程度を、大幅に改良することを目指している。OPCPAで増幅率分のコントラスト10^6を、さらにパルススライサーを併用して総合で10^<12>のコントラスト比は可能と考えている。システムの発振器を100nmのバンド幅を有するものに変更し、オフナー型パルスストレッチャーを出た後で1nsのパルス幅までストレッチした。このパルスを図1に示す非同軸型位相整合を行うことで、広帯域の増幅が可能になる。インジェクションシーダを装着したQスイッチYAGレーザーの2倍高調波100mJでBBO結晶を励起し、1段で10^4倍、2段でトータルおよそ10^6倍以上の利得が得られていることを確認した。また増幅パルスのスペクトル波形が観測できる程度まで増幅することができたので、観測したところバンド幅62nmのガウシャンスペクトルが得られることが判明した。来年度前半までにOPCPAを完成し、クラスター照射及び放射線発生の実験を開始する予定である。
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