強光子場とパルス整形技術による分子操作と量子過程制御

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14077206
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 酒井 広文 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教授 (20322034)
• 研究分担者: 峰本 紳一郎 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (90323493)
• キーワード: 永久双極子モーメント / 誘起双極子モーメント / 分子の配向と配列 / パルス整形技術 / 遺伝的アルゴリズム / 量子過程の最適制御 / 時間に依存した偏光パルス / トンネルイオン化

研究概要

1.静電場とレーザー電場の併用による分子の配列制御
昨年度は、静電場と楕円偏光したレーザー電場を併用し、3,4-dibromothiopheneなどの分子面を持つ分子の3次元的な配列制御が可能であることの原理実証実験に成功した。配列した試料分子を応用実験に利用するためには、さらに配列度を上げることが不可欠であり、今年度はそのための装置開発に着手した。配列度の増大には静電場強度を上げることが有効であるが、実効的な静電場の増大により、装置特性がデリケートになる可能性がある。装置の設計に当たり、荷電粒子の電場中での飛行軌道をシミュレーションにより十分検討した。
2.偏光状態が時間と共に変化するパルスの発生とその制御
時間依存偏光パルスの評価手法であるPOLLIWOGの測定結果を指標とし、偏光状態の時間変化も含めて目標とする特性を有するパルスを生成できるようなフィードバック制御技術を開発しつつある。このような技術は理論的に予想された最適パルスの検証実験に不可欠であるばかりでなく、最適制御の実験で得られたパルスとの比較検討のためにも有用である。
3.楕円偏光した高強度レーザー電場による2原子分子のトンネルイオン化過程の理論研究
昨年度行った配向したI_2分子中の多光子イオン化過程の最適制御の実験結果に触発され、楕円偏光した高強度レーザー電場による2原子分子のトンネルイオン化過程の理論研究にも着手した。同じパルス幅とピーク強度を持つパルスでも、時間に依存した偏光パルスを用いることによって楕円率が一定のパルスよりもイオン化を促進または抑制できることを発見した。
4.高次高調波発生装置の試作と2波長レーザー光による高効率高次和・差周波光発生
高次高調波発生の基本波として用いる高強度超短パルスレーザーよりも波長が長く強度が2桁以上低いナノ秒レーザー光(それ自身の高次高調波は発生しない)を併用したときに、ナノ秒レーザー光の光子が1つあるいは2つ関与した和・差周波光が高効率で発生することを発見した。イオン化ポテンシャルのほぼ等しいArとN_2あるいはXeとO_2を比較した場合、高次高調波に対する和・差周彼光の相対的な発生効率は分子の方が高く、分子制御の観点からも興味深い。

研究成果

• [文献書誌] H.Sakai, J.J.Larsen, I.Wendt-Larsen, J.Olesen, P.B.Corkum, H.Stapelfeldt: "Nonsequential double ionization of D_2 molecules with intense 20 fs pulses"Physical Review A. Vol.67. 063404-1-063404-4 (2003)
• [文献書誌] H.Sakai, S.Minemoto, H.Nanjo, H.Tanji, T.Suzuki: "Orientation of polar molecules with combined electrostatic and pulsed, nonresonant laser fields"The European Physical Journal D. Vol.26. 33-37 (2003)
• [文献書誌] Shinichirou Minemoto, Haruka Tanji, Hirofumi Sakai: "Polarizability anisotropies of rare gas van der Waals dimers studied by laser-induced molecular alignment"Journal of Chemical Physics. 119・15. 7737-7740 (2003)
• [文献書誌] Takayuki Suzuki, Shinichirou Minemoto, Tsuneto Kanai, Hirofumi Sakai: "Optimal control of multiphoton ionization processes in aligned I_2 molecules with time-dependent polarization pulses"Physical Review Letters. (発表予定). (2004)
• [文献書誌] Takayuki Suzuki, Shinichirou Minemoto, Hirofumi Sakai: "Optimal control of multiphoton ionization processes in I_2 molecules with time-dependent polarization pulses (in Japanese)"The Review of Laser Engineering. 31・11. 762-769 (2003)