レーザーによる量子制御の手法の1つに、相対位相が制御された複数色のレーザー光(例えば基本波とその3倍波)を媒質に入射させ、光反応を制御するというスキームがある。本年度は、最も基本的な束縛2準位系について、シュレーディンガー方程式とマクスウェル方程式を連立して解くことにより、伝播ダイナミクスを理論的に調ベた。特に、レーザー場が強い場合には、ac Stark shiftによって準位のエネルギーシフトが起こり、レーザー強度の変化に伴つて共鳴条件が変わるため、注意が必要である。まず、ac Stark shiftが無視できる光強度が弱い場合について考える。計算の結果、伝搬初期には吸収によって3倍波の光強度は減少するが、伝搬が進むにつれ、基本波からの波長変換により光強度を回復する。しかしながら、上位準位の占有密度は回復しない。これを理解するため、両方のレーザー光の相対位相の変化も計算した。媒質入射時の初期相対位相に関わらず、伝搬にともなって相対位相が変化し、最終的にπに落ち着くことがわかった。このπという値は基本波による3光子励起と3倍波による1光子励起の2つの遷移経路が完全に負の干渉をする相対位相値である。次に、光強度が強い場合についても計算を行った。この場合にはac Stark shiftを無視できない。ac Stark shiftによって、光強度は時間の関数として激しく振動する。相対位相もやはり激しく振動することがわかったが、ある程度の距離を伝搬した後は、相対位相は光強度がピークになるあたりでやはりπに落ち着く。細かなダイナミクスは異なるものの、光強度の弱い場合と基本的な振る舞いは変わらないことがわかった。
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