本研究では、非線型な分子集団運動の典型的な例として、蛋白質の折り畳み過程に対して、ファネル描像の基本的な前提は踏まえた上で、より動力学的な様相を取り入れたモデルを考えた。この意味で本研究が扱うモデルをdynamical funnelと呼ぶ事にする。このモデルは、次の三つの自由度から構成される。第一はファネル自由度である。折り畳み過程は、全体としてファネル状になったポテンシャル地形上のダイナミックスと考える。ただし、この地形は多くの凹凸を伴っている。第二の自由度が、蛇行の自由度である。折り畳み過程がファネル状の地形のダイナミックスであるとしても、その地形を降りる動きが一次元的であるはずは無い。むしろ、ファネルに沿った方向は、多くの蛇行を伴っていると考えられる.この蛇行のため、ファネルに沿った運動は、曲がり角において振動を励起することにより、運動エネルギーを失っていく。第三の自由度は、熱浴である。 従来、蛋白質の動力学の解析には、主成分解析が用いられてきた。しかし、従来の方法は、一つのポテンシャル井戸内の運動には用いることができても、遷移状態を越えて進行する反応過程には、不向きである。その理由は、解析が大域的に行われるからである.この困難を回避するため、本研究では、dynamic funnelモデルのダイナミックスに対して、局所主成分解析を行った.ここで用いた方法は、Broomheadらによって提案された方法である。一般に局所主成分解析は、幅や中心の選び方に任意性を持っている.この任意性を利用する事で、相空間の情報を抽出しようというのが、彼らのアイデアである。この方法を、dynamical funnelに適用した結果、有望な方法であることが分かった。しかし、実際の分子動力学計算に応用するには、越えなければならない多くの課題がある。その最初は、funnel自由度をどう選ぶかという問題である。モデルにおいては、あらかじめfunnel自由度が選ばれている事を前提としているが、実際の解析では、この選択が第一の障壁となる。また、極めて凹凸の多い地形に対して、使えるのかという問題もあろう。これらは今後の課題である。
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