強レーザー場と結合した分子集団運動を始め、非平衡非定常なダイナミックスには、多数の自由度が関与した集団運動と、個別的な自由度による運動が存在する。集団的な運動は、反応のマクロな記述にとって重要であるのに対し、個別的な運動は、その統計的な性質が関心の対象となる。特に、強レーザー場の下での運動は、非平衡非定常性が強いため、全系から、どのようにして集団運動を切り出すかが問題となる。本研究では、このような問題意識から、蛋白質折り畳み過程をモデル化する簡単な系を対象に、分子集団運動を切り出す試みを行った。我々のモデルは、アミノ酸を単位粒子として記述するビーズモデルと呼ばれるものである。ここでは、22個のビーズを一次元的につなげた「22ビーズモデル」を対象とし、基底状態の近傍のダイナミックスを解析した。解析に用いた手法は、局所主成分解析と呼ばれる。基底状態に近いサドルを通過する軌道を、数値的に多数作り、それらがどのような向きで通過しているかを局所主成分解析で解析する。その結果、一対の形で存在するベータシートにおいて、シートの折り曲がり部位と、端の部位が多く動いているとが分かった。これは、これらの部位が最も動きやすいことから、良く理解できる結果である。今後は、この局所主成分解析を拡張し、サドルからサドルへ至る運動において、運動の向きの変化を検出する解析を行う予定である。なお、この研究は、神戸大の小松崎氏、シカゴ大学のコストフ氏との共同研究である。また、基底状態を求めるに際して、ケンブリッジ大学のウェイルズ氏が開発したプログラムを用いた。
|