研究概要 |
本年度は以下の4点について成果が得られた:(1)Ethanolの強光子場イオン化解離,(2)Propanolの強光子場イオン化解離,(3)光子場によるbinaphthyl分子内回転制御,(4)遷移元素水素化物におけるスピン軌道相互作用効果.(1)のEthanolについてはMCSCF(8,6)/6-311G(d,p)を用いてCs対称解離経路に沿うポテンシャルエネルギー曲面を求め,東北大学の河野グループによる動力学的考察に用いた.現在,論文準備中である.このテーマについては,次の課題としてC_1対称解離経路の役割,解離極限の電子状態の精度など考慮する余地がまだ残されている.(2)のpropanolは2つのCC結合の選択的解離の可能性について検討するために取り上げた.しかしながら,振動の自由度が高く,多くの困難が明らかになった.試験的研究としてMCSCF(10,8)/TZV(2d,p)法を用いてCs対称解離経路に沿うポテンシャルエネルギー曲面を求めた.この結果から,中央のCC結合がイオン化に伴い0.5Åも伸び,解離制御において大きな役割を果たすことが明らかになった.また,propanolの最安定構造はtrans型であることから平行な末端のCC結合とCO結合とを選択的に解離させることは難しいが,0.05auの電場を作用した時のポテンシャルエネルギー曲線の形状からCO結合がより短い結合において励起状態とavoided crossingを起こし単調減少のエネルギー曲線に乗り移ることが明らかになった.今後,C_1対称解離経路に沿う有効ポテンシャルエネルギー曲線や2次元に拡張したポテンシャルエネルギー曲面を構築し,動力学的研究に用いる予定である.そして,trans型構造を仮定したpropanolの場合に平行な末端CC結合とCO結合の解離選択性の可能性を追求する.加えて,cis型の構造を有するpropanolについても検討する予定である.(3)のbinaphthyl分子は分子モータ設計の一例として取り上げた.Binaphthylはhelical chiralityを有するが,MCSCF(8,8)/6-31G(d,p)法を用いてふたつの光学異性体を結ぶcis型およびtrans型の遷移状態を求めた.今後,これらの構造を始点としたminimum energy pathを求め,分子内回転を制御すべきレーザ波形を設計する.(4)の遷移元素水素化物におけるスピン軌道相互作用効果については複数のReviewsを発表した.それぞれの水素化物におけるこの効果を検証し,一般的な傾向を導き出すことを目的とした基礎研究である.
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