研究概要 |
1.位相緩和を伴う準位交差における非断熱遷移 2準位にほぼ共鳴するレーザー光を照射し、その振動数を掃引することで擬似準位交差(adiabatic rapid passage)を実現できる。この際、凝縮系に特有の多自由度性に起因する位相緩和が非断熱遷移に及ぼす影響を明らかにした。萱沼により、以前に見出されていた2準位交差に対する公式を、3準位が1点で交差するbowtieモデルに拡張して、遷移確率の解析的公式を得た(K.Saito and Y.Kayanuma, Phys. Rev. A,65,33407)。 2.振動外場で変調された半導体のバンド計算 GaAsなどの共有結合半導体に、非共鳴強赤外レーザーを照射するとtransientにバンドギャップが縮むという現象が報告されている。我々は、半導体の価電子帯(HOMO)と伝導帯(LUMO)の双方が同じ原子軌道の1次結合で出来ているという事実に着目し、「強レーザー場のもとでのバンド計算」という新しい問題を設定した。今年度は、とりあえず1次元tight-bindingモデルにもとづき、振動外場中のバンド計算(ドレストバンド)と、光学応答理論の枠組みを構築した。この際、時間軸における周期性と空間軸における周期性の絡み合いが生じるが、ある種のゲージ変換により、これを分離できる。またFloquetの定理とBlochの定理が有効に使えることを見出した。予備的計算により、非共鳴レーザー照射によって、伝導帯幅が縮むこと、および、吸収端の下側にあらたな誘導吸収が現れることを見出した(Y.Kayanuma and Y.Mizumoto, oral presentation at IQEC 2002,Moscow)。 3.X線非線形分光の理論 軌道放射光の進歩により高強度のコヒーレントX線光源が現実のものとなりつつあるのを踏まえ、X線領域における非線形分光理論の枠組みを作った(S.Tanaka and S.Mukamel, J.Chem.Phys.116,1187)。内殻励起のサイト選択性により、分子内電子波ダイナミックスをポンププローブ分光により調べる方法を提案した(S.Tanaka and S.Mukamel, Phys. Rev. Lett.89,43001)。
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