研究概要 |
高強度光電界において分子の反応ポテンシャル曲面を制御するための10^<15>W/cm^2以上の高強度光パルスを高い自由度と高い精度で整形するための技術開発を行った。前年度に継続して,周波数領域における振幅と位相を変調できる音響光学フィルタ(AOPDF)と増幅レーザ波形測定には周波数域電界相互相関干渉(TADPOLE)法を組み合わせ,TADPOLEで計測したスペクトル位相・振幅特性をもってAOPDFの変調を補正する閉ループ制御系を完成させた。制御に用いるパラメータが各段に多いために数回の補正で整形器を最適化することが可能である。ただし,TADPOLEの周波数軸の校正誤差の影響で,補正回数を増やすとむしろ整形精度は悪化してしまう。また,本手法では,スタート時にあらかじめ整形用の変調パターンを理論的に用意しておく必要があり,また,増幅器の伝達関数に非線形性が強い場合には精度が劣化してしまう。しかし,以前に開発したFROG参照法と比べて明かに性能面での利点が高い。 本年度は,さらに整形されたレーザパルスの時空間特性に関して調査を行なった。我々のシステムでは,波形整形後に再生増幅器を配しているため,空間プロファイルは増幅器によって決定されるので均一であり波形整形器での空間域変調の影響は受けない。しかし,セグメント型の空間光変調器およびAOPDFにおいても位相-振幅結合が原理的に存在するため,増幅パルスが振幅変調を受ける領域が存在することが明かとなった。 このパルス整形器をもちいて,適応制御型パルス整形法で,エタノール分子の解離性イオン化を制御する実験を行った。その結果,エタノールのような単純な骨格をもつ分子では,パルスの位相・振幅変調によるダイナミックな反応ポテンシャル曲面の変化は,必ずしも解離特性の変化にはつながらず,核波束の運動を維持するだけの時間幅だけが重要であることを確認した。これは,前年度の周波数チャープパルスによるオープンループ制御実験の結果を支持したものである。
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