研究概要 |
BINAP-Ru錯体とBINAP-Rh錯体を用いるエナミド類の高エナンチオ選択的水素化の分子機構を解明した。モノヒドリド-不飽和機構で反応が進行し、エナンチオ面選択は基質触媒複合体の立体相補性によって理解できることを示した。主鏡像異性体と副鏡像異性体の同位体標識型式の類似性・相違性を詳細に比較検証した結果、生成物の両鏡像異性体ともに同じ機構で生じることを証明した。しかし、(E)-および(Z)-3-フェニル-2-ブテン酸基質の水素化においては、(1)E体基質はα,β/β,γ異性化、α,β体の水素化、β,γ体の水素化のネットワークに置かれていること、(2)Z体基質の水素化には主に三種類の機構が関与し、副鏡像異性体の生成には主鏡像異性体の生成にはない機構が働いていること、を明確に示した。不斉反応における主副触媒サイクルのエネルギー図や鏡像面選択性は、副鏡像異性体の起源を確認することなく、単一の反応機構が働くという大前提のもとに議論される傾向にある。その危険性を実験結果をもって具体的にはじめて示すことができた。さらに、本研究プロジェクトにおいて、Cp*Rh(III)触媒を用いるケトン類のLeuckart-Wallach型還元的アミノ化反応およびCpRu(II)/2-ピリジンカルボン酸誘導体混合触媒をもちいるアリルエーテル結合の切断および生成反応の二つの新触媒系を確立した。ともに原子効率、Eファクタ、操作性、安全性等のいずれの観点からも従来法に圧倒的に優る。とくにアリルエーテル合成はWilliamsonのエーテル合成以来150年、懸案の課題を解決した方法として注目される。
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