研究概要 |
本研究では、遷移金属錯体の動的挙動を精密に制御することにより、従来の概念では不可能であった新規触媒的へテロ原子導入反応を開発することを目的として研究を行った。その結果、水に代表される極性小分子の触媒的活性化に直接繋がる「低原子価ルテニウム錯体と水との反応」を詳細に検討した結果、いくつかの重要な新規錯体を合成し、その特異な構造と反応性を明らかにした。 1.水配位O価ルテニウム錯体の合成:不斉環境にある水分子 我々が初めて合成したO価ルテニウムアクア錯体、Ru(dimethyl fumarate)_2[1,2-bis(diphenyl-phosphino)ethane](H_2O)(1)の構造と動的挙動について詳細な検討を行った。錯体(1)中の水の酸素原子は、ルテニウムへの配位とdimethyl fumarate配位子の二つの非等価なカルボニル酸素との水素結合により、キラル中心となっている。ラセミの錯体1は自然分晶またはキラルカラムを備えたHPLCにより光学分割可能であった。さらに、温度可変^1H NMR測定とDFT計算により、配位した水分子の回転と反転過程を明らかにした。 2.オキサメタラサイクル部位を有する二核2価ルテニウムアクア錯休の合成と構造 O価ルテニウム錯体Ru(η^6-1,3,5-cyclooctatriene)(η^2-dimethyl fumarate)_2(2)と水との反応を、(S, S)-DLPAMP配位子共存下で行った結果、オキサメタラサイクル部位を有し、酸素配位と非等価な水素結合により酸素上にキラル中心を有する水が配位した、新規二核2価ルテニウムアクア錯体(3)を単離収率26%で得た。 3.新規オキソ架橋ルテニウム4核錯体の合成と構造 リン配位子を添加せずに、錯体(2)と水とを、1,4-ジオキサン中、6時間加熱還流した結果、水分子の活性化が進行した後、ルテニウムの酸素親和性による自己集積化が進行したと考えられる新規オキソ架橋ルテニウム4核錯体(4)が単離収率73%で得られた。
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