研究概要 |
遷移金属錯体はその化学的特性として「柔らかい配位特性」あるいは、「配位自在性」を持っている。これらのゆらぎが、金属中心を結合切断や結合生成に必要な活性状態へと導く。例えば金属中心のまわりで配位子どうしが互いの位置を迅速に入れ替えたり、金属と直接結合する原子の種類を同一配位子内で取り換える激しい動きが、遷移金属錯体の特徴である。有機遷移金属錯体が示す新規で多様な動的結合特性の解明と制御法の開発に関する系統的な研究を行い、新規超効率物質変換法の創出の基礎を築くことは意義深い。本年度の研究成果として、触媒合成化学に関連したPd, Pt錯体とアセチレンとの反応挙動について報告する。 1.Pd(SR)_2やPt(SR)_2構造を持つ錯体とアセチレンの反応の第一ステップは、M-SR結合へのアセチレンのシス挿入で、β-チオビニル金属錯体が得られた。次のステップはPd錯体とPt錯体では大きく異なる。Pd錯体ではあらたに形成されたビニル基とPd上の残りのSR基とがカップリングして1,2-ビスチオ置換アルケンが遊離するのに対し、Pt錯体では同様の生成物は得られなかった。代わりに、もう1分子のアセチレンがPt-S結合に挿入してビス(β-チオビニル)Pt錯体となる。C-S結合が形成する還元的脱離に比べてC-C結合が形成する還元的脱離は起こりやすく、この中間体からPtがとれて、両端がチオラートでエンドキャップされたアセチレンの2量化体が得られた。 2.Pd-Pd結合を持つ2核錯体とアセチレンの反応は、まず1,2-シスジパラダ置換アルケンを与えた。さらに別のアセチレン分子が順次この1:1付加体と反応し、1:2および1:3付加体を与えることが判明した。すなわちこれらの逐次挿入反応は、成長点が活性種の両端にある新しいアセチレン重合過程を再現しているとも見なせる。
|