遷移金属錯体はその化学的特性として「柔らかい配位特性」あるいは「配位自在性」を持っている。これらのゆらぎが、金属中心を結合切断や結合生成に必要な活性状態へと導く。本研究では、有機遷移金属錯体が示す新規で多様な動的結合特性の解明と制御法の開発に関する系統的な研究を行い、新規超効率物質変換法の創出の基礎を築くことを目的とする。本年度の研究成果として、触媒合成化学に関連したニッケル錯体の生成と反応挙動について報告する。 1.η^2-アルデヒド配位子およびη^2-アルケン配位子を含むニッケル錯体の合成と変換 2つの炭素-炭素2重結合あるいは3重結合が金属原子上でカップリングして5員環メタラサイクルを作る反応過程は、多くの触媒的変換反応の鍵ステップとして重要な役割をはたすことが知られている。これに対して1つの炭素-炭素不飽和結合に代わってカルボニル結合がカップリングに関与するオキサメタラサイクル形成反応については、ニッケルや前周期遷移金属を用いる触媒反応などで重要であると想定されているが、化学量論的なニッケル錯体の反応で実際にその過程を実証した報告例は無い。本研究で、安定なη^2-アルデヒド配位子およびη^2-アルケン配位子を含むNi(O)錯体の単離を行った。さらにこのものの熱的環化カップリング過程を観測することができた。またこの環化が、カルボニル基の酸素に対するルイス酸の求電子攻撃で著しく加速されるという興味深い事実も見出した。 2.ニッケル錯体触媒による末端アセチレンの選択的2量化 立体障害の大きいトリーt-ブチルボスフィンを配位子とするニッケルゼロ価錯体を触媒に用いると、アルキル置換アセチレンやアリールアセチレンなどの末端アセチレンが、頭-頭選択的に2量化して対応するエン-イン化合物を与えることを見出した。
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