研究概要 |
テルル化カドミウム半導体(CdTe, CdZnTe)は,NaI(Tl)シンチレータと同等のガンマ線阻止能力を持つ,新しい半導体検出器である.これらの半導体は,素子内で発生した電子・正孔対をもれなく集めるのが難しく,高いエネルギー分解能をもった検出器の実現は困難とされてきた.1キロ電子ボルト(半値全幅)以下というようなエネルギー分解能の極めて高いCdTe半導体素子の開発を行い、それを発展させた硬X線撮像検出器や新しい概念にもとづいたガンマ線検出器の開発を行っている.そのために,CdTe半導体ばかりではなく,検出器を作る上で基礎となる実装技術(特許申請済み)や読み出し用のアナログVLSIの開発を進めている.本年度は(1)独自開発の2次元ASICやカリフォルニア工科大学のASICを用いた250ミクロン角,および500ミクロン角のピクセルを持つCdTeピクセル検出器の試作.(2)高いエネルギー分解能を持つシリコン両面検出器と2mm角のピクセルを64個持つCdTeピクセル検出器を組み合わせた世界で初めてのSi/CdTe半導体コンプトンガンマ線望遠鏡の実証と大型放射光施設(Spring-8)のシンクロトロンビームによる偏光測定実験,をおこなった。将来的にガンマ線領域での偏光観測を行う事を目的にSi/CdTeコンプトンカメラの試作器を搭載し、大気球を用いてCygX-1の観測実験を行った.検出器はB500(500,000立方メートル)という、直径115m、長さ160mという国内では初めての大きさの気球を使って打ち上げられた.検出器のほか、開発されたコンパクトな高速データ処理システム、方向規正システムなどの正常動作を確認し、バックグラウンドスペクトルを取得して検出器の感度を測定するなど、大型化した検出器によるブラックホール候補星からの偏光観測へのめどをつけた.
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