研究概要 |
単離した肝臓、膵臓、腸管、唾液腺等の細胞集団の中から、極少数しか存在せずかつ形態によって区別することが難しい多能性を持つ幹細胞(stem cell)を、FACS (fluorescence activated cell sorter)とモノクローナル抗体を用いた精度の高い細胞分離法により純化・回収し、それらの分化・増殖・自己複製・可塑性機構を解析することを目的として研究を行った。これまでに肝幹細胞、膵幹細胞の分離・同定を達成したが、本年度は唾液腺幹細胞の分離において成果が認められた。低分裂頻度の唾液腺細胞を組織学的に同定することを目的として、内胚葉由来の唾液腺である顎下腺の発生過程におけるlabel-retaining cells (LRC)の解析を行った。また、ラット新生仔顎下腺を対象として、低密度培養による唾液腺細胞のクローナルな培養系を確立し、FACSによる細胞分離法を用いて、高い増殖能と多分化能を兼ね備えた唾液腺幹/前駆細胞の同定と特性解析を試みた。その結果、LRCは線状部導管に限定的に存在していることが判明した。単一の唾液腺細胞からクローン性コロニーを形成させ得る至適培養条件を決定したが、このコロニーを構成する細胞中には、aquaporin5(AQP5), cytokeratin19(CK19)、s100 proteinなどの複数の分化マーカーを発現した細胞が存在することを確認した。さらに、FACSによる細胞分離を行ったところ、ICAM-1^<high> RT1A^- CD45^- Erythroid cell^-細胞画分にコロニー形成能を有する増殖能の高い唾液腺細胞が限定的に存在することが判明した。新生仔顎下腺におけるICAM-1の発現部位は、組織学的には線状部導管に一致していた。すなわち、ラット新生仔顎下腺中の唾液腺幹/前駆細胞の表現型がICAM-1^<high> RT1A^- CD45^- Erythroid cell^-細胞である可能性が示唆された。この表現型は、ラット胎仔肝臓中の肝幹/前駆細胞と類似していることから、消化器官における組織幹細胞の近縁性が推測された。複数の消化器官における組織幹細胞を横断的に比較することにより、消化器系における幹細胞システムの全体像が解明されることが期待される。
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