単離した肝臓、膵臓、腸管、唾液腺等の細胞集団の中から、極少数しか存在せずかつ形態によって区別することが難しい多能性を持つ幹細胞(stem cell)を、FACS(fluorescence activated cell sorter)とモノクローナル抗体を用いた精度の高い細胞分離法により純化・回収し、それらの分化・増殖・自己複製・可塑性機構を解析することを目的として研究を行った。これまでに肝幹細胞、膵幹/前駆細胞、唾液腺幹/前駆細胞の分離・同定において成果をあげている。最近、幹細胞の自己複製に関与する分子群と腫瘍化プロセスとの密接な関連性が示唆されつつある。そこで、FACSを用いて分離した肝幹/前駆細胞画分であるc-Kit-CD49f+/lowCD29+CD45-TER119-細胞を対象として、レトロウイルスベクターを用いたβcateninあるいはBmi-1の過剰発現を行った。その結果、重層化したクローン性コロニーが形成され、これらのコロニー中では多分化能を維持した増殖(自己複製)が2-3倍生じていることが判明した。この細胞を免疫不全マウスに移植したところ、混合型肝癌に類似した組織像を有する腫瘍が形成された。肝幹細胞を対象としたプロスペクティブな実験系により、肝幹細胞の過剰な自己複製が発癌ステップとして重要である可能性が示唆された。今後、組織幹細胞にどのようなイベントが生じた場合に癌が生じるのかについて、分離した幹細胞を対象として、腫瘍化プロセスを再構成する研究が重要となる。
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