研究概要 |
マウス胚性幹細胞(ES細胞)はLIFによって未分化状態が維持される。その未分化状態維持には、STAT3の活性化及びOct-3/4の発現が必須である。本研究ではES細胞の未分化状態維持の分子機構を解明する目的で、DNAマイクロアレイをもちいてSTAT3ターゲット遺伝子の探索を行なった。その中から、ポリコームグループ遺伝子eedがSTAT3遺伝子の下流に存在し、かつOct-3/4によって制御されていることが明らかとなった。現在、eed遺伝子欠損ES細胞株の作製を試みている。 さらに、ES細胞の分化におけるRasの役割について解析を行なった。我々は以前に、胚様体形成時にRasが活性化されることを明らかにした。そこで今回、Rasの優性抑制型変異体を胚様体で発現させたところ、GATA-4,GATA-6,a-fetoprotein, HNF3bなどの内胚葉分化マーカー遺伝子の発現を抑制した。一方、活性型変異体の発現は、これらの遺伝子の誘導を促進したことから、Rasが内胚葉への分化に関与していることが示唆された。また、Raf/MEK/Erk経路を選択的に活性化するRas変異体の胚様体における発現は、内胚葉分化マーカー遺伝子の発現を促進した。さらに、MEK阻害剤であるU0126による処理は、これらの遺伝子の発現を抑制した。これらのことから、Rasは、Raf/MEK/Erk経路を介してマーカー遺伝子の発現を誘導していることが推測された。さらに、胚様体での活性型Rasの発現は、ES細胞の内胚葉分化の阻害因子として報告されたNanogの発現減少を引き起こすことを見出した。一方、Rasの優性抑制型変異体の発現及びMEK阻害剤による処理は、Nanogの発現量を上昇させた。これらの結果は、胚様体形成時に活性化されたRasが内胚葉分化抑制因子であるNanogの発現を抑制することにより、内胚葉への分化を誘導していることを示唆する。
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