ES細胞の多分化能力を規定するクロマチン構造をDnmt3b遺伝子座着目して明らかにするために、まずこの遺伝子のゲノム構造を解明し、遺伝子のプロモーターを含めた転写調節領域を同定した。このプロモーターには塩基配列および遺伝子導入による転写活性化の結果から転写因子Sp1が作用していることが示唆されたが、ゲノムでの因子の結合は確認されなかった。しかしDnmt3b遺伝子の発現に関わらずプロモーター領域に因子が結合していることは、DNAのメチル化パターンの解析結果で常時低メチル化状態にあることが確認されたことから強く示唆された。本年度はこの遺伝子の転写調節より細胞分化に伴ったクロマチン構造変化の解析を重点的に行った。ES細胞および分化誘導後10日経過した細胞のゲノムクロマチンの構造を比較したところ、DNase Iに対する感受性が未分化ES細胞で極めて高いことを見い出した。さらに未分化細胞特異的なクロマチンの構造および、その形成機構を明らかにするために、Dnmt3b遺伝子座に着目してDNase I高感受性部位のマッピングを行ったところ、およそ50kbのゲノム領域に10以上の高感受性部位を見い出した。これは一般の体細胞では見られない高頻度の高感受性部位の出現を意味する。実際にES細胞を分化させるとプロモーターを含むCpGアイランドに存在する2つのDNase I高感受性部位を除いてことごとく消失した。細胞分化に伴った高頻度のDNase I高感受性部位の消失は未分化ES細胞特有のダイナミックなクロマチン構造の存在を示すものである。そこで未分化ES細胞特異的なDNase I高感受性部位形成の機構を解明するためにまず、ヒストン修飾について解析を行った。様々なヒストン修飾に対する抗体を用いて解析したが、DNase I高感受性部位特異的なヒストン修飾は見出せなかった。さらにバルクで見てもES細胞分化に伴ってヒストン修飾の顕著な変化は認められなかった。従ってES細胞特異的なクロマチン構造の形成には、ヒストン修飾以外の機構が存在する可能性が高いと考えられる。
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