研究概要 |
昨年度までに、Oct-3/4とOct-6からなるキメラタンパク質を用いた解析からES細胞の未分化状態維持能力とUTF1遺伝子の発現を維持する能力の間に強い因果関係があることを明らかにしていた。かつ、UTF1遺伝子の発現レベルが低いES細胞は、多能性に関しては維持しているが、通常のES細胞と比べその増殖速度が極めて遅いことがわかった。今年度、UTF1の強制発現により、そのES細胞の増殖速度が通常のレベルまで回復することが確認できた。かつ、このUTF1の効果はES細胞の腫瘍原性においても顕著であり、UTF1の発現レベルが低く、増殖速度の低いES細胞は、腫瘍形成能が極めて低いのに対して、そこにUTF1を過剰発現させると、いわゆる野性型のES細胞と同等の腫瘍原性を示すようになることがわかった。これらの研究結果は現在、Mol.Cell.Biol.にin pressであり、今年6月頃、掲載される予定である。また、UTF1の作用機序として、ERasの発現をコントロールすることにより、ES細胞の増殖を司るのであろうことを示唆する予備的なデータを得ている。今後それらのデータを確固たるものとしていきたいと考えている。また、プロモータートラップあるいはGene Chip法を用いた解析からES細胞の未分化状態特異的に発現する遺伝子として同定されたJAM-B, dual specificity phosphatase, nucleostemin遺伝子のジーンタゲティングによる解析も行っており、特にJAM-Bに関してのノックアウトマウスの作成は完了している。従って、平成17年度以降、この遺伝子のES細胞における役割を明らかにしたいと考えている。また、この遺伝子は神経幹細胞、ならびに血液幹細胞でも発現しており、これら幹細胞におけるJAM-B遺伝子の役割も明らかにしたいと考えている。何故ならば、これらの解析は、これらの幹細胞共通の性質を分子レベルで理解することを可能にし、そのことがES細胞特有の性質を理解する上でも役立つと考えているからである。
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