癌細胞や神経系細胞の膜表面に発現する糖脂質糖鎖のシグナル制御における役割と、その異常による病態のメカニズムを解明するために、1.メラノーマや小細胞性肺癌における糖脂質糖鎖のリモデリングに基づくシグナル制御機構の解析、2.遺伝子ノックアウトによる糖鎖欠損マウスの樹立とその異常表現型の解析による糖脂質糖鎖の生体内機能の解析、を行った。メラノーマ細胞では、GD3ガングリオシドが特徴的に発現することで、アダプター分子p130Casやパキシリンの活性化が起こり、細胞増殖や浸潤性の増強に働くことが示された。また、FAK(focal adhesion kinase)も同様に活性化されることが分かった。一方、小細胞性肺癌では、 GD2の発現により、細胞増殖や浸潤性が亢進するとともに、抗GD2抗体の結合がアポトーシスを誘導することが判明した。抗体の結合に基づくFAKの脱リン酸化とp30の活性化が、細胞死を招くことが示された。よって、1.抗GD2抗体がanoikisを惹起すること、2.GD2/インテグリン/FAKの複合体を破壊することが、癌の攻略に応用すべきこと、等が明らかになった。 また、酸性糖脂質は脳神経系に多く発現しており、その分化や機能に重要な役割を果たすことが推測されてきた。 本研究では、ガングリオシドGM2/GD2合成酵素ノックアウト(KO)、GD3合成酵素KO、両者のダブルKO、GM3合成酵素、ラクトシルセラミド合成酵素KOなどを樹立して、それらの異常表現型を解析した。概して、欠損する糖脂質の構造が多岐にわたる場合に重篤な症状が見られたが、結論的には、酸性糖脂質が神経系の構築というよりは、脳神経系の健常性の維持や損傷時の修復に重要であることが明らかになった。さらに、ダブルKOにおける発現遺伝子のプロファイリング実験により、神経変性が単なる萎縮性の変化ではなくて、補体系の活性化や前炎症性サイトカインの分泌など、その炎症病変を伴う病態が明らかになった。
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