研究概要 |
胃粘液は表層粘液細胞から分泌される表層粘液細胞型粘液と,副細胞や幽門腺から分泌される腺粘液細胞型粘液に大別され,後者は特徴的にGlcNAcα1→4Galβ残基を有するO-グリカンを含んでいる.ピロリ菌感染胃粘膜において,ピロリ菌は表層粘液細胞型粘液内に棲息しており,αGlcNAc残基を含む腺粘液細胞型粘液内には殆ど見出されないことから,本年度はピロリ菌感染におけるαGlcNAc残基含有O-グリカンの役割について検討した.GlcNAcα1→4Galβ残基を生成するα1,4-N-アセチルグルコサミン転移酵素(α4GnT)を,コア2β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素(C2GnT)及び分泌型CD43と伴にLec2細胞に遺伝子導入してαGlcNAc残基を持つ分泌蛋白を作成し,この存在下でピロリ菌を培養した.その結果,コア2分岐型O-グリカンのみを持つ分泌蛋白と伴に培養した対照群に比べピロリ菌の増殖が著明に抑制され,またフィラメント状に伸長した菌から断裂した菌まで著しい変形が認められた.さらにピロリ菌の細胞壁に特徴的なα-コレステリルグルコシド(αCG)の含有量が対照群に比較し著明に減少していた.次にin vitroのアッセイ系を用いて,αGlcNAc残基の存在下ではコレステロールからαCGへの生成が阻害されることを示した.一方,基質としてコレステロールの代わりにコレステノンを加えた場合にも同様にαCGの合成が阻害され,さらにコレステノンの存在下でピロリ菌は増殖できなかった.以上より,腺粘液細胞から分泌されるGlcNAα1→4Galβ残基は,ピロリ菌におけるαCG合成を阻害,菌の増殖を抑制することでピロリ菌から腺粘液細胞自身を防御している可能性が示された.現在,この結果をin vivoのレベルで解析するためにα4GnT遺伝子欠損マウスを作成している.
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