研究概要 |
胃粘膜の幽門腺細胞や副細胞から分泌される腺粘液はGlcNAcα1→4Galβ残基を有するユニークなO-グリカンを含んでいる.ピロリ菌感染胃粘膜においてピロリ菌は腺粘液内に見出せないことから,腺粘液はピロリ菌に対して防御的に働いている可能性が示唆される.本研究の目的はピロリ菌感染における腺粘液に特有な糖鎖,GlcNAcα1→4Galβ残基含有O-グリカンの役割を明らかにすることである.昨年度の研究成果により,GlcNAcα1→4Galβ残基含有O-グリカンはピロリ菌の細胞壁に特徴的なα-コレステリルグルコシド(α-CG)の生合成を阻害することによって,ピロリ菌の増殖を抑えている可能性が示唆された.α-CGの生合成にはコレステロールが必須であり,またピロリ菌が利用するコレステロールは全て外来性であることから,本年度はコレステロールを含まない培地でピロリ菌を培養することによってα-CGを欠損したピロリ菌株を樹立し,その細胞増殖能,運動能,形態像をコレステロールの存在下で培養した野生株と比較検討した.その結果,培養5日目においてα-CG欠損ピロリ菌の増殖能は野生株に比べて約10%と著しく減弱し,また運動能も失われ,著しく伸長したピロリ菌が多数に認められた.さらに培養3週目ではα-CGを欠損したピロリ菌は全て死滅し,生存菌は認められなかった.以上より,α-CGはピロリ菌の増殖,運動能,形態保持に必須であることが示された.ピロリ菌感染におけるGlcNAcα1→4Galβ残基含有O-グリカンの役割をin vivoのレベルで解析するため,昨年度から引き続きGlcNAcα1→4Galβ残基含有O-グリカンを欠損したマウス(α4GnT欠損マウス)の作成を行っている.
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