糖脂質硫酸転移酵素(CST)ノックアウトマウスは、ミエリン機能異常による神経症状を呈するとともに、精子形成が第1減数分裂中期において停止することから、スルファチドがミエリン機能に、セミノリピドが精子形成に必須な分子であることがわかった(PNAS 2002)。CST欠損マウスでは、ランビエ絞輪部位におけるミエリン側方ループの軸索への接着が障害され、ナトリウムチャネルとカリウムチャネルが集積できずに散逸し、このため神経症状をきたすと考えられた(J Neurosci 2002)。さらに、この異常は、発生過程ではなく維持過程で生じることがわかった(Glia 2006)。一方、発生過程では、CST欠損マウスでは、in vitroでもin vivoでもオリゴデンドサイトの最終分化が促進しており、スルファチドが、オリゴデンドロサイトの分化を負に制御するキー分子であることがわかった(Glia 2004)。グリーンマウス由来の精原細胞の移植実験により、CST欠損マウスの障害は生殖細胞側に存在することがわかった。さらに、セミノリピドは分化型精原細胞以降の生殖細胞系譜の細胞表面に発現することがわかった(Glycobiology 2005)。CST欠損マウスの解析により、単球上のL-セレクチンと腎臓のスルファチドの相互作用が間質性腎炎の引き金となる単球の浸潤に関与することを示した(JBC 2004)。CST欠損マウスに免疫して硫酸化糖脂質に対する単クローン抗体DI8を作製し、その遺伝子をもとに単鎖抗体scFvを作製した(J Biochem 2005)。シアリルルイスX抗原を高発現しているヒト肺腺がん細胞に、CSTファミリーの硫酸転移酵素GP3STの遺伝子を導入すると、シアリルルイスX抗原の代わりにスルホルイスX抗原を発現するようになり、肺への血行転移が抑制された。
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