研究概要 |
本研究の目的は、中枢神経系の主要な細胞表面分子であるにも関わらず、その生理機能についてはほとんど理解されていないコンドロイチン硫酸(CS)の役割を解明することである。この目的に向かって、本年度は、以下の成果を上げた。 1.ニューログリカンC(NGC)の細胞外領域切り出し機構 中枢神経特異的膜貫通型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるNGCの細胞外領域は、神経突起身障促進活性や増殖因子としての活性を持つ。また、発達期のラット脳や培養神経細胞の培養液中に検出される。そこで、その切り出し機構に関わるプロテアーゼを、特異性の異なる種々のプロテアーゼ阻害剤を利用して推定することを試みた。TIMP-3およびTAPI-1を、神経細胞の培養系に添加した時、NGC細胞外ドメインの遊離が有意に減少したことから、ADAM-17がNGCの切り出しに関わっていることが示唆された。 2.NGC遺伝子改変マウスの作製と病態解析 NGCの発現が10%以下に低下しているマウスの行動を観察したところ、次の行動異常が認められた。(1)回転踏み車試験で、回転数を上げると早く落下する。(2)水迷路試験で、訓練時にプラットホームが有った位置に拘る。(3)受動回避試験で、電撃刺激を記憶していて、暗箱へなかなか入らない。この結果は、NGCが脳の高次機能に関与する分子であることを示している。 3.FGF-2依存性の神経幹細胞増殖を促進するCS活性ドメインの同定 市販の高硫酸化コンドロイチン硫酸E(CS-E)が、神経幹細胞の増殖促進に関与することから、CS-Eを部分分解して、最小機能単位の同定を試みた。その結果、12糖と推定される3,000kDa画分に強い増殖促進活性が認められた。この画分には、FGF-2と結合するオリゴ糖が含まれることが、水晶発振子マイクロバランス法により明らかとなった。また、6硫酸化6糖も、FGF-2と高親和性を持つが、増殖促進活性は無かった。このことから、FGF-2との結合には、6糖の大きさで良いが、生理活性を発揮するには、その倍程度の分子サイズが必要であることが明らかとなった。
|