本研究の目的は、中枢神経系の主要な細胞表面分子であるにも関わらず、その生理機能についてほとんど理解されていないコンドロイチン硫酸の役割を解明することである。この目的に向かって、本年度は、以下の成果を上げた。 1.脳特異コンドロイチン硫酸プロテオグリカンNGCの機能解析 NGC(ニューログリカンC)は、膜貫通型分子であり、成長因子ミッドカインの受容体活性があることが明らかとなった。遺伝子改変によりNGCの完全欠失マウスを作製し、戻し交配により遺伝子背景をC57BL/6系統にした。この変異マウスの行動を観察したところ、先に完成したNGC発現低下マウスと同様に、水迷路実験において、一旦記憶した場所にこだわる傾向が強いことが判明した。このことから、NGCは確かに脳の高次機能に関わる分子であることが確認できた。 2.神経幹細胞の増殖を促進するB型コンドロイチン硫酸糖鎖CS-Bの構造と活性の相関 由来の異なる2種類のCS-B標品(CS-BPとCS-BC)を得た。両者の二糖組成分析を行ったところ、いずれも4硫酸単位が80〜90%を占めていたが、FGF-2依存性神経幹細胞の増殖を促進する活性は、CS-BPにのみ検出された。CS-BPには、代表的な幾つかの二糖単位に加えて、構造未同定の二糖単位が全体の2%存在していた。この二糖単位は、CS-BCには、全く検出できなかった。この二糖単位が増殖促進活性に関わる可能性があるため、現在、質量分析による構造決定の準備をしている。 増殖促進活性を示す最小のオリゴ糖を得るために、CS-BPに電子線を照射して、様々な分子サイズの糖鎖を調製した。それらの活性を測定したところ、4kDaの糖鎖には活性が認められなかったが、6kDa以上の分子サイズがあれば、活性が発現することが明らかとなった。
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