研究概要 |
今年度は主にフラストレートした格子模型の確率的情報処理への応用例として,連想記憶/画像修復/スペクトル拡散通信への応用を試みた.連想記憶へ応用した結果,化学ポテンシャルを適切に調節し,ニューロン数を削減することにより,パターン数を多数埋め込んだときに生じるフラストレーションを低減し,結果として記憶容量が増加することをレプリカ法による解析で確かめた[Progress of Theoretical Physics, Supplement,(2005)印刷中].また,画像修復への応用としては,領域ベースのエッジ検出法として無限レンジ模型により,その有用性を確認し,現在マルコフ連鎖モンテカルロ法による2次元画像でのチェックを継続中である[一部を国際会議SPDSA2004で発表].また,スペクトル拡散通信への応用では,各ユーザからの信号の振幅に格子ガスのラベルを割り当て,全体としての[電力コスト]を低減しつつ通信を行うシステムを設計し,その有効性をレプリカ解析により確認した.この解析は現段階ではまだ不十分ではあるが,まとまり次第公表していく予定である. また,これらの格子ガス模型に基づく確率的情報処理とは別に,研究代表者が2001年に発表した量子スピンモデルによる画像修復アルゴリズム[J.Inoue, Physical Review E(2001)]をより発展させ,それをSourlas符号と呼ばれる誤り訂正符号に応用する研究も同時に行った[APS March meeting 2005発表予定].Inoue(2001)では,有限温度にあるスピン模型に横磁場による量子効果を加え,その効果の画像修復への影響を調べたのであるが,温度揺らぎの介在しない,純粋な量子効果だけによる画像修復を行った場合,温度揺らぎにおけるNishimori-Wong条件に相当する,最適な横磁場の強さが存在するか否かを確認することは意味のあることである.今年度はその条件の導出に成功し,温度揺らぎによるMPM推定のパフォーマンスは量子揺らぎによるMPM推定のパフォーマンスとその最良値は厳密に等しいことを示した.さらに,Geman-Gemanらの温度アニーリング法による画像修復を量子アニーリングに拡張し,両者の性能を計算機シミュレーションにより確認した.その結果,MAP推定による最適値は平均場モデルによる解析が予想するように,精度の観点からは量子アニーリングがやや優れているとはいうものの,エネルギー最小化という観点からは(数値計算の範囲内で)両者にはほとんど差がでないことがわかった.このことは温度揺らぎによるエネルギー障壁のジャンプとは本質的に異なる量子力学的なトンネル効果を用いても最適化,ベイズ推定を構築することができることを意味し,今後この方法を他の確率的情報処理へと応用し,その有効性を探っていくことは非常に重要な課題となってくると考えている.
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