研究概要 |
本課題研究の最終年度である今年度は,温度揺らぎを用いた画像修復アルゴリズムを絶対ゼロ度で温度揺らぎが存在しない条件下でシステムに量子力学的揺らぎを導入することにより,周辺化事後確率最大推定(MPM推定)を構成し,この手法を画像修復にとどまらず,誤り訂正符合(ソーラス符号)および,CDMAマルチユーザ復調器に応用する研究を重点的に行った.量子揺らぎを用いた画像修復のレプリカ法による解析に関しては研究代表者により既になされていたが(Inoue 2001),そこでは絶対ゼロ度における解析ではなく,純粋に量子揺らぎのみに基づく修復アルゴリズムの性能を評価するには至らなかった.しかし,今回の解析においては平均場モデルの範囲内で純粋に量子揺らぎのみを用いたMPM推定値の性能を解析的に評価することに成功した.その際,古典系での情報復元の最良性を与える西森-Wong条件の量子系版である条件式を導出することができ,今後の量子揺らぎの制御が問題解決に本質的な影響を与えるであろう状況に対してある種の指針を与えることができたここで得られた結果はJ.Inoue, Quantum Spin Glasses, Quantum Annealing and Probabilistic Information Processing, in "Quantum Annealing and Related Optimization Methods".としてLecture Notes in Physics(Springer)の1章として出版された. この研究課題は今年度で終了するが,現在でも「データシンボルと信号振幅を同時推定するCDMAマルチユーザ復調器の性能評価」(京大・田中利幸氏との共同研究),「CDMAマルチユーザ復調器の準安定状態の計数」(理研脳科学センター・Jonathan Hatchett氏との共同研究),「濃淡画像のハーフトーン処理とインク滲み除去法の統計力学」(和歌山高専・雑賀洋平氏)との研究が進められており,次年度以降も継続的な研究成果が見込める状況にある.
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