研究概要 |
本研究の目的は、スピングラスの物性模型や情報理論模型に共通する複雑系の位相空間構造を解析する手法を開発し、その物理特性を明らかにすることである。本年は、各情報素子の実現確率に偏りがある場合、物性物理の言葉ではスピンに共役な磁場がある場合の物理特性の解明に取り組んだ。もう一つの成果はスピングラス系の秩序の壊れやすさに関する知見を得たことである。 1.3次元イジングスピングラス模型での磁場中非平衡緩和: 有限次元のスピングラスが磁場中相転移をするかどうかはいまだ解決されていない基本的な問題であるが、この研究では非平衡秩序化過程を見ることで相転移の存在を探ろうとした.磁場を切替えることで決まる特徴的な時間スケールをエイジング過程で詳しく調べてみると,ある種のスケーリング則が成り立つことが見出された.そのスケーリングは高磁場極限の常磁性相を含んでおり,このことから磁場を導入するといずれは高磁場の常磁性状態にクロスオーバすることを示唆している.つまり,我々の結果は磁場中では相転移はしないとする解釈と符合する.この研究に関する論文はJournal of Physical Society of JapanのLetters of Editors choiceに選ばれた。 2.スピングラス状態の摂動に関する安定性解析 スピングラス状態は摂動に対して非常に敏感であるとこれまでに予想されてきたが,実際に有限次元系で数値的検証を試みた。摂動は温度変化や相互作用変化を対象としたが,どちらも同じように平衡状態が壊れることが示された.また,その壊れ方を表す指数ζと,励起状態の自由エネルギーの指数θと励起状態の液滴のフラクタル次元d_Sを一つの研究の中で系統的に調べ、我々の研究ではじめてそれらの間のスケーリング関係式が確かめられた。
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