本年度はまず、量子誤り訂正符号の統計力学的側面とその不規則系への応用研究を行った。量子誤り訂正符号の一種であるトーラス符号においては、誤り訂正限界の算出の問題が有限次元スピングラスの多重臨界点の決定と等価であることが知られている。私たちはまず、この対応関係を3+1次元に拡張し、3次元のトーラス符号で誤りの観測が不完全な場合において、誤り訂正限界が4次元のゲージグラスの一種に置き換えられることを使い、後者の多重臨界点を双対性を使って算出した。驚くべきことに、その結果は2次元の場合と完全に一致した。数値シミュレーションも、われわれの理論的予想を裏付けている。さらに、2次元においてトーラス符号の誤りパターン数の上下限を評価し、それを用いて2次元スピングラス模型の基底エネルギーの下限を求める方法を確立した。 また、スピングラス模型の強磁性相の性質を解明する研究の一環として、いわゆる西森ライン上でグリフィス不等式を証明した。グリフィス不等式は純粋の強磁性体については古くから成立することが知られており、長距離秩序の存在条件等について重要な物理的結果を導く。私たちは、ガウス型の不規則性を持つスピングラス模型のゲージ対称性を活用して2種類のグリフィス不等式がいずれも、西森ライン上で成立することを厳密に証明した。したがって、西森ラインはスピングラス模型の相図の中に位置しながら、その上では系の性質は際だって強磁性的であると解釈できる。
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