研究概要 |
主に以下の2つの研究を行った. 1)統計力学の解析手法を情報符号化技術の標準的な解析法として定着させるため,その有用性を示す研究を行った.具体的には,携帯電話に代表される無線通信の重要な要素技術であるCDMA通信方式のマルチユーザー復調アルゴリズムを統計力学の技術を用いて開発した.この種のアルゴリズムは複数の変数を多段の回路に受け渡す形式で実装されるが,提案手法は既存手法と比較して,必要な段数を数十%削減することが可能で,しかもユーザー数が十分に多い状況では,理論的な最良限界をほぼ達成する性能を示すことが明らかになった.この結果は米国電気学会主催の国際会議ISIT2003および,英国物理学会刊行のJ.Phys.A誌上で発表された. 2)統計力学の技術が情報科学の問題に有用であるならば,逆に情報科学で知られている技術が統計力学の問題に役立つ可能性もある.そのような例は両分野を隔てる無用な垣根を低くする方向に作用し,本課題の最終目標である情報科学における統計力学的手法の定着にもつながる.そこで本研究では,確率推論の研究で知られている信念伝播(BP)アルゴリズムをスピングラスモデルに適用し,相転移構造の解明に役立つことを示した.具体的には,スピングラス転移の熱力学的判定条件であるAT安定性の破れが,BPアルゴリズムにおける動的な不安定性の条件と一致していることを強く示唆する結果を得た.これが正しいとすると,従来不明であった希釈スピングラスモデルの相図を簡便に得ることが可能となる.この結果は.日本物理学会刊行のJ.Phys.Soc.Jpn.誌上で発表された.
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