研究概要 |
主に以下の2つの研究成果を得た. 1)離散ランダムエネルギー模型におけるレプリカ指数に関する厳密な解析接続 統計力学的手法の情報科学への応用に際して,もっとも中心的な役割を果たしているのがレプリカ法である.圧縮符号や誤り訂正符号など情報通信に関する符号化問題では,データやノイズの固定された実現値に対してではなく,与えられた確率分布からランダムに定まるデータやノイズのサンプルへの平均的な振舞いによってその性能が定まる.情報科学における従来手法では,ランダム符号化など特殊な場合を除いて,これらのサンプル平均を解析的に評価する手段は知られていなかった.レプリカ法は,サンプルに依存する分配関数と呼ばれる量の自然数べきに関するモーメントの評価結果を複素数べきに対して解析接続することにより,ランダム符号化を含むより広い問題クラスに対して,精度の高い解析的性能評価を可能にする手段である.ただし,自然数から複素数への解析接続を行う際に,どのような現象が起こり得るのか,そのシナリオは完全には解明されていない,この研究では,離散ランダムエネルギー模型と呼ばれる数理モデルに対してレプリカ法を用いずに自然数べきから複素数べきへの解析接続を行うことにより,レプリカ法を適用する際に現れる様々な相転移現象の起源を解明することに成功した. 2)歪みありデータ圧縮の誤り指数評価に関する統計力学的枠組みの構築 情報符号化における誤り指数の評価は情報理論における中心的課題の一つである,特に,歪みありデータ圧縮に関する誤り指数評価は未解決問題が多数残されており,現在,精力的に研究が行われている問題である.本研究では,レプリカ法を応用することで,従来手法では事実上ランダム符号化に限られている誤り指数のタイトな評価をより広い符号化クラスに拡張することに成功した。
|